Portrait

むしゃくしゃしてやった。今は反芻している。

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青空文庫
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近代デジタルライブラリー
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" 我々はもういくらかの人生を見て来た、意欲して来た、戦って来た。その体験は今我々の現在の人格の内に渦巻きあるいは交響している。我々の眼や我々の意欲は、このオーケストラを伴奏としてさらに燃え、さらに躍動しようとする。そうしてこの心は自らを表現しないではやまない。たとえ我々の生命の沸騰が力弱く憐れなものであるにしても、我々はなお投与すべき力の横溢を感ずる。我々は不断に流れ行く自己の生命を結晶せしめ、我々のもろい生命に永遠の根をおろさなくてはならぬ。しかし我々はさらに昇るべき衝動を感ずる。我々はさらに見、さらに意欲し、さらに戦わねばならぬ。我々の表現すべき内生は真理の底に、生命の底に、まっしぐらに突進して行く奔流のごとき情熱である。岩壁に突き当たって跳ね返えされる痛苦を、歯を食いしばって忍耐する勇気である。我々の血は小さい心臓の内に沸き返っている。我々の筋肉は痛苦の刺激によって緊張を増す。この昇騰の努力を表現しようとする情熱こそは、我々が人類に対する愛の最も大きい仕事である。"

和辻哲郎 創作の心理について

"人は偉大な作品を創りたいという気をきわめて起こしやすい。しかし偉大な表現はただ偉大な内生あって初めて可能になるのである。何を創作したいという事よりも、まずいかに生きたいという欲望が起こらなくてはならない。人は第一に生きている。表現はその外形である。我々のなすべき第一の事は、決然として生の充実、完全、美の内に生きて行こうとする努力である。"

和辻哲郎 創作の心理について

"私の心が自然の美に打たれて興奮する、私は喜びを現わさないではいられない。すなわち我々の生命活動は何らかの形で自己を表現することにほかならない。
 我々が意志を持つ、そうして努力する。これすなわち自己表現の努力である。
 我々が感情を持つ、そうして喜怒哀楽に動く。これもまた白己の表現である。
 芸術の創作は要するにこの自己表現の特殊の場合に過ぎない。"

和辻哲郎 創作の心理について

"生きるとは活動することである。生を高めるとは活動を高める事である。従って活動が高まるとともに生の価値も高まる。人格価値というのも畢竟この活動にほかならない。活動の高昇はすなわち人格価値の高昇である。(もとよりここにいう活動は外的活動の意味ではない。全存在的活動、あらゆる精神力、肉体力の統一的活動である。)"

和辻哲郎 創作の心理について

"私は思う、要するにこれが創作の心理ではないのか。生きる事がすなわち表現する事に終わるのではないのか。"

和辻哲郎 創作の心理について

"――この時、突然私を捕えて私の心を急用から引き放すものがあった。私は坂の上に見える深い空をながめた。小径を両側から覆うている松の姿をながめた。何という微妙な光がすべての物を包んでいることだろう。私は急に目覚めた心持ちであたりを見回した。私の斜めうしろには暗い枝の間から五日ばかりの月が幽かにしかし鋭く光っている。私の頭の上にはオライオン星座が、讃歌を唱う天使の群れのようににぎやかに快活にまたたいている。人間を思わせる燈火、物音、その他のものはどこにも見えない。しかしすべてが生きている。静寂の内に充ちわたった愛と力。私は動悸の高まるのを覚えた。私は嬉しさに思わず両手を高くささげた。讃嘆の語が私の口からほとばしり出た。坂の途中までのぼった時には、私はこの喜びを愛する者に分かちたい欲望に強くつかまれていた。――"

和辻哲郎 創作の心理について

" 我々は創作者として活(はた)らく時、その創作の心理を観察するだけの余裕を持たない。我々はただ創作衝動を感ずる。内心に萌え出たある形象が漸次醗酵し成長して行くことを感ずる。そうして我々はハッキリつかみ、明確に表現しようと努力する。そこにさまざまの困難があり、困難との戦いがある。しかし創作の心理的経路については、何らの詳しい観察もない。創作の心理は要するに一つの秘密である。
 しかし我々は「生きている。」そうしてすべての謎とその解決とは「生きている」ことの内にひそんでいる。我々は生を凝視することによって恐らく知り難い秘密の啓示を恵まれる事もあるだろう。"

和辻哲郎 創作の心理について